【八十神の舞】神々の舞う地、神代市を舞台につむがれる物語。

八十神の舞トップ >  小説本編 , 八十神の舞

【八十神の舞】序章


 炎があった。
 気付いたとき、彼女――水上あやめの眼前には轟々と燃え上がる神社の境内が浮かび上がっていた。

「なっっ……」

 一瞬、言葉にならない声を漏らした彼女だが、すぐさま周囲を見回し、自分のおかれた状況の確認を始めていた。
 若干十七歳でしかない、いわゆる女子高生であるのに、落ち着き払ったその行動に大人を感じずにはいられなかった。

 ゆっくりと立ち上がる彼女の傍らには、彼女を気付かせてくれた者達が鎮座している事に気付くと、大人を何処かへ置き忘れ、次の瞬間には怒鳴り始めていた。

「アンタたち、いったい何をやってるのよ!」

 そこにいた三匹の猫たちは、この炎上する状況におかれてなお怯える様子もなく、じっと彼女をみつめていた。

「ったく……。まぁいいわ!
 このままじゃあ住むところが無くなっちゃうからね。
 アンタたち、協力しなさいよ!」

 火事場に猫の手が如何ほどの助けになるのか――彼女は真顔で言い放つと、一番燃え方の激しい本殿へと走り出した。
 そしてそれに迷いもなく続く三匹の猫たち。この異様ともいえる光景だが、それを見ているのは我々高天原の住人だけであろう。

 異様な光景は未だ続く。

 本殿の扉を蹴破り、一気に本尊まで駆け寄ったとき、そこに一組の男女がいたのだ。

「あれぇ……随分はやかったなぁ~」
「ふむ、仕方ないさ。予定は狂うために在る様なものだ」
「まぁ、そうだけどさぁ~」

 あまりに落ち着き、またあっけらかんとした何処か春の公園で交わす雑談よろしい会話に彼女は一瞬引きつるも、激して言い放った。

「この火付け盗賊が!
 よくもあたしの家に火をつけてくれたわね!」

 しかしそれに返ってきた声はどこか緊張感を欠く物言いであった。

「ごめんねぇ~あやめちゃん。
 どうしてもここの御神体が必要だからさぁ~」

 云われて彼女はようやくあることに気付いた。

 この声、この話し方。

 いつも彼女を助けてくれた敬愛する年上の従姉……

「あずみ姉ちゃん……」

 炎の中で無防備に立ち尽くしてしまった彼女の頭に過去の記憶が一気に流れ出す。

 かつて、本家を出奔し、分家の娘である水上あやめが神社の守人となるに至った張本人。
 御名神(ミナカミ)あずみがそこにいたのだった。

「い、今更、なんで今更!」

 嬉しさは怒りに裏返り、記憶は悲しみへとすり替わる。いまのあやめにはそれ以上の言葉にはならずにいた。またあずみにしても同様の感情があらわれていたのかもしれない。刹那の無言があり、男がそれを言葉にして続けてのだった。

「スマンな……全ては創世のため……」

 男にも見覚えがあったがすぐに思い出せない。
 そして思い出すより早く、炎が本尊と彼らの全てをおおい尽くしたのだった。

 炎の中より声だけが響く……

「また会おう、新たな御名神よ。神道の果てて待っている」

「シン・ドウ?」

 言葉の意味を解する前に、眼前から突き上げてきた衝撃波があやめらを本殿の外へと弾き飛ばしたのだった。と同時に本殿そのものが一瞬にして蒼白く燃え上がり、次に目を開いたときには灰しか残っていなかった。

「シン・ドウ……」

 全てが灰になり、ようやく彼女は気付いた。
 彼女の前に立ちはだかったのは、新堂と御名神。
 神代御三家の長子のうちの二人である事に……

「いった、い……
 いったい、何なのよ――!」

 物語は、ここからようやく始まる――


(序章 了)

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://otjyuku.net/cgi/mt/mt-tb.cgi/715

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

Powered by
Movable Type 3.35

Powered by
Movable Type 3.35