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第66号 死光

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    週刊「帰還限界点 連載小説」

☆===========================================第66号=====


『壊れていくこの世界で……』(最終話 -4- 死光)


「聖母が……起きた?」

信濃の言葉を疑問形で繰り返したのは、七月だった。
言って、自分でもなるほどと聖母と呼ばれた女性に納得して
いる部分もあった。
しかし、今の時代に聖母も何もないだろう、との気持ちも強
かった。

「そう、聖母。
天使を生み出す者、人を天使と変える者、救世主を生み出す
者……
メシア=プロジェクトの要、サンタ=マリアよ。」

信濃の言葉は、一同に更なる疑問符を投げつけていた。だが、
信濃の解説が入るより早く、QZLが乙夏に囁いていた。

「私の名前……思い出した?」

神々しいまでの光を背に携えた彼女を前に、乙夏は身動きが
出来ずにいた。それは威圧ではなく、安らぎを乙夏に与えよう
としていた。

「アンタの……名前……」

乙夏は何かを思い出しそうになっていた。脳漿の光の渦の更
に奥底が何かを訴えようとしていた。しかし瞬間、七月が叫ん
だ!

「だめぇぇぇぇっ!」

七月はQZLにざらざらとした、嫌な感覚を覚えていた。前
世というものが在るなら、絶対友達ではなかった、と直感的に
肌で感じた事が声になっていたのだ。結果としてそれは的を射
ていた。七月はあずみのエイリアスなのだから……

びくんと身震いさせ、乙夏は我に返った。
乙夏自身、何かヤバイ、と感じる物があった。安らぎは確か
に心地よい。しかし、その心地よさに身を委ねてはいけない、
そう感じたのだ。
だが、それに信濃は抗議の声をあげる。

「なんて事をするの!
この世界を救うには、乙夏=モードニスが彼女の名前を思い
出さなきゃならないのよ!」

端正な顔を先程以上に歪ませ、焦りの色を見せながら更に続け
る。

「いい、アナタ達!
昨日、サタンが破壊された!
そしてサタンから核が抜き取られた!
藤守まりあと名乗った女に!
最高位の熾天使の核が汚され、堕天してしまった!
藤守マリアはアンチ=マリア、大淫婦リリスになった!
もう、時間がないのよ!
もうすぐ、リリスの身体を突き破って神敵となったサタンが
私達の前に来るのよ!
乙夏=モードニスには、はやく救世主として覚醒して貰わな
きゃならないのよ!」

言い切って、歯を食い縛る信濃に、この場でそれを知らなか
った者達の心にある風を吹き込んだ。

〈否定〉という風を。

七月も甲斐造も、『違う』と心が、いや彼らの形を決定付け
ている〈魂〉がそう訴えていた。
それに気付いた信濃は愕然となった。見ているしか出来ない
自分に、知っていてもどうする事も出来ない自分の無力さに……

『父さん……』

祈りにも似た救済を求める信濃の声は、ゴーレム……いや、
今は尊氏となった彼は気付いていた。彼ら真枝家で得た尊氏の
臍の緒を吸収したゴーレムは既に尊氏そのものとなっていたた
め、常に意識が信濃とリンクしているのだ。だが、何も言えな
かった。意識を共有しているといっても、かつての尊氏の様に
兄弟として育ったという経験までは持ち合わせていなかったの
だ。

しかし、祈りは届いた。
現れたのだ、真枝神曲が……

ICUの前に立つQZLを護るよう、陽洸は立ちはだかる。
乙夏らには、一切QZLの身を護る素振りを見せなかった陽
洸がとった行動の変化に、信濃は気付かなかった。
間に乙夏らを置いて、真曲がQZLを見つめていた。
しかしその視線すら気付かずに、信濃は神曲に近付いていっ
た。

「父さん!」

先程とは打って変わって、安堵の色を見せた信濃であったが、
次の神曲の言葉で神曲が神曲ではなくなっている事に気付いた
のだった。時は既に信濃に流れる事を許さなかったが……

「どうしたんだい? 信濃?」

この決定的なセリフに身じろいだ瞬間、神曲の右腕が不自然
に伸び、信濃の胸を貫いていた。

「ふむ……どうして気付いた?」

神曲の顔で不思議そうな表情を作ってみせる。

「父さんは、私をハダーニエルと呼ぶわ……」

言って、信濃の時は永遠に止まった。
それを確認すると、神曲の姿をしたそれは尊氏に信濃の遺体
を放り投げた。
尊氏が信濃を受け止めると、信濃の身体は光の粒となり、儚
く霧散したのだった。

「神の意志を伝える前に神の御許へと還ったか……」

「貴方の手によってでは、ハダーニエルもさぞ無念であったで
しょう……
ねぇ、サタン……」

神曲……いや、サタンに言葉を返したのは陽洸を控えさせ、
一歩歩み寄ったQZL自身であった。

「なに、これからお前達が慰めに行ってやればいいだけのこと
だ……」

不敵に笑った彼は、神曲の姿を捨て、現実世界に忠実に自ら
の身体を変化させていった。

これから始まる、殺戮という名の宴の為に……



(つづく)

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