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第68号 敗因

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    週刊「帰還限界点 連載小説」

☆===========================================第68号=====


『壊れていくこの世界で……』(最終話 -6- 敗因)


「見事なものね……」
現実世界に戻ったサタンに労いの言葉をかけるミサヲは、母
というには妖しく、白い肌に映える真紅の唇は艶やかであった。
まるで恋人を待ち焦がれていた様に……

「でも、詰めが甘かったみたいね。」

ミサヲの言葉に、サタンは素直にそれを認めた。

「はい。サンタマリアとメシアを捕り逃しました。」

「それだけじゃないわ。これを見なさい。」

ミサヲが示したのは、モニターの録画VTRであった。




「なに、これからお前達が慰めに行ってやればいいだけのこと
だ……」

不敵に笑ったサタンは、神曲の姿を捨て、現実世界に忠実に
自らの身体を変化させていった。
右腕は肩口から植物の根と血管が絡み合った黒く醜悪なそれ
へと変わり、神曲の不敵な笑みをみせていた口元は烏の様にせ
りでていった。まさに神敵を名乗るにふさわしい、悪魔の形相
であった。

「なっっ!」

四人は身じろぐが、QZLと房森陽洸はそれを意に介す様子
は無く、しかし臨戦体勢は崩さずに対峙していた。
瞬間、黒い腕は四人を無造作に打ち据え、激しく壁に吹き飛
ばしていた。
されるがまま……、いや何が起きたのかさえわからないまま、
四人は全身を襲った激痛のためパニックとなっていた。
そして、黒い腕は先のほうから自らの血潮を吹きながら四つ
に分かれ、それぞれが四人の心臓めがけて鋭く向かってきた。
あっけなくも四人の時計が止まるかと思われたその時、四本
の腕は一瞬にして輪切りにされていた。

「これでいいんだな?QZL……」

「ええ、アリガト。陽洸。」

陽洸は悠然と一歩踏み出すと、真紅に燃える剣をサタンに向
けていた。
しかしサタンもそれをさして気にする事無く、文字通り生え
てくるように腕を再生させた。

「どうやら、予備は既に覚醒しているようだな……」

口の無くなったサタンがいつかのナビゲーターに良く似た声
で呟く。だがその事に乙夏は気付きもせず、腕にしっかりとし
がみついてきた七月とともに身動き一つできずにいた。

「失礼な事は言わないで欲しいわ……陽洸が先に私の名前を呼
んでくれた。
私の名前を呼んでくれた人は光の軍団を統べる力を手に入れ
る資格があるのよ。
等しく、ね……」

言って、再びQZLは乙夏に問いを投げかけた。

「私の名前、思い出した?」

乙夏は、思い出していた。いや自分が生み出されるよりずっ
と以前から知っていた。
だが、自分の腕にギュッときつく絡みつく七月の目からひと
すじの涙がこぼれた時、乙夏は小さな声だがはっきりとQZL
に言った。

「思い出したけど、俺は今を生きている。
過去にいなくなった女も、訳のわからないモノや仲間もいら
ない。
俺はいまいるコイツを護る。」

それを聞いたQZLは静かに目を閉じると、サタンを抑えて
いる陽洸の前に立ち、優しくキスをした。
同時に、陽洸の身体は更なる変貌を遂げ始める。
翼は四枚となり、身に纏う光が一層強くなっていったのだ。
しかしその瞬間はサタンにとって好機であった。
再生した腕を漆黒の剣へと変化させ、絡み合った二人に振り
下ろした。

ヴンンン……

空気が震え、光は漆黒の剣をからめとる。
サタンの剣は二人までは届かず、宙に留まっていた。しかし
剣から滲み出す闇はゆっくりと光を侵食しはじめる。闇と光は
互いに互いを喰らおうと一進一退を繰り返す。その中で光と闇
が交じりたゆたう虚ろが現れはじめていた。だが、そうするう
ちに陽洸の変化は終わり、光の力が一気に膨れ上がった。

「くおっ!」

膨れ弾けた光は神代病院のさして広くも無い通路をサタンの
半身ごと分子へと分解し霧散させていた。
同時に房森らは逃げに出た。背後の空間を歪ませると二人は
身をあずけ、次の瞬間には忽然とその場から消え去っていた。
その場に、歪みと虚ろから漏れ出る輝く粒を残して……

粒は、乙夏らに触れると雪が解けるように身体の中に染み込
み、先程受けた傷を一瞬にして癒し、萎えた心に熱いものを取
り戻させていた。
漏れでた粒が全て消えると、闇一色であった。通路が破壊さ
れ停電したためだ。だがそれも、少しの間も置かず非常灯に切
り替わる。今まで時が止まっていたかのように、病院内が慌た
だしくなり、耳を聾するほどに警報がけたたましく鳴りはじめ
た。

「逃げられたか……」

困ったふうでもなく、事も無げにサタンは呟く。えぐれた半
身は既に再生され、怪物の様は変わらぬ恐怖を漂わせていた。

「癒しの光を置いて去るとはな……
どうやらお前達に永く苦しみを与えてほしいらしい……」

「くそっ! 逃げろ!」

乙夏は七月の腕を引き、ICUに向かって駆け出した。
尊氏=ゴーレムはそれに続いたが、甲斐造は逃げ出さなかっ
た。

「上手く逃げろよ……」

呟くと、甲斐造はファイティングポーズを取り、サタンと対
峙した。

「コラァ! このカラス野郎!
そういう格好はクリ君だけで十分なんだよ!」

ろくに格闘技もやった事は無いが、喧嘩で負け無しの甲斐造
の右ストレートがボディを捉える。たまらず相手は身をくの字
に曲げる程そのパンチには威力があった……そう、人相手であ
れば。
無造作に縦に振ったサタンの腕は、甲斐造を真っ直ぐICU
の入り口まで吹き飛ばした。
甲斐造はそのままICUの入り口に辿り着いていた尊氏にタ
ックルする形となり、たまらず尊氏も吹き飛ばされる。
背中にタックルされた尊氏は呼吸困難に陥っていた。だがゴ
ーレムでもある尊氏の呼吸が元通りになるまで人間のそれより
遥かに速かった。
すぐに振り返り、甲斐造を無意識に抱きかかえたが彼の時は
既に止まっていた。
光の粒子となった彼の身体は、尊氏の腕の中で弾けて消えた。
尊氏は……いやゴーレムは、信濃が殺された事で自分の存在
意義を見失っていた。だがそんな時、信濃の声が聞こえた気が
した。

「そんな事ない。私達は貴方の中に生き続けている」

と……

安っぽいロマンチシズムだな、とゴーレムはすぐに走り出し、
乙夏らの後を追った。
しかしICUに入ってすぐ、立ち尽くす二人を見つけ、ゴー
レムは思い出した。
この部屋は入り口以外は密室だった、と……

「GAME OVER!」

サタンは絶望の中にある三人の心臓を三つ又に割った腕で貫
き、体外に引きずり出されたそれを握り砕いた。
乙夏と七月は絶望を胸に抱き、一縷程の希望を夢見る時も与
えられず、光の粒となり動かなくなったゴーレムに降り注いだ。

「ふ……」

サタンは踵を返し、天を仰いだ瞬間、DWゲーム内から忽然
と消えていた。



「わかったかしら?」

モニターを前に、ミサヲはサタンに尋ねる。しかしサタンに
はメシアとサンタマリアを逃がした事以外の問題は無い様にに
えていた。そのため、無言で立ち尽くす事しか出来ずにいた。

「まぁ、いいわ。
どうやら、この戦いは永くなりそうね」

予言めいた事を口にすると、ミサヲはすっくと立ち上がり、
闇色の部屋から光の世界へと足を踏み出した。

「決着をつけに行きましょう。私達自身の手で……」




(つづく)

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