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第69号 希望

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    週刊「帰還限界点 連載小説」

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『壊れていくこの世界で……』(最終話 -7- 希望)


乙夏=モードニス死の報に続き、湊七月、伊達甲斐造、真枝
信濃死亡の報告がもたらされた。
全てが後手後手にまわっている。皆がそう痛感せざるを得な
かった。それを強く感じさせたのは他ならぬ新堂の自失であっ
た。

「どうやら、ここまでみたいですね……」

はじめに立ち直ったのは、妙崎建であった。いや、正確には
立ち直ったのではなく、予定通りの行動を取りだした。

「この史上最高の頭脳を無に帰する状況は避けさせてもらいま
すよ」

その言動に石崎が激しく反応する。

「テメェ、まさか寝返るつもりか!」

石崎の腕は言葉より早く建を突き飛ばしていた。
たまらずしりもちをついた建であったが、やれやれと言った
口調でそのまま語りを始めた。

「驚いたなぁ~
まさか、僕を仲間と勘違いしているとは思いませんでしたよ。
それも、あなたがね。〈石タコ〉……」

最後の言葉が何を意味するのかを知っている新堂、あずみ、
石崎の三人は驚きのため思考が停止してしまった。

「テメェ、何でそれを知ってるんだ……」

「何をいってるのやら……あなたの綽名でしょう?
あ、そう言われるのは嫌いでしたね。
神代高校卒業の時に〈今度その呼び方をしたら絶交だ〉って
宣言してたから……」

あずみは、以前感じた違和感の正体にようやく気付いた。

「たっくん……君、〈光〉だね?」

この回答は、その場の全員を驚愕させるのに十分であった。

光…、すなわち〈永瀬光〉。

かつてのPPT出版社の同僚であり、現SSH社長、世界を
手中に収めたミカエルと意志を同じくする者と同一人物である、
そうあずみは言ったのだ。
それに満足したような笑みをこぼし、建は埃を払うような仕
草を見せゆっくり立ち上がった。

「ついてきてください。
案内しますよ、ミカエルの元に……
神の玉座に……ね」

言うと、天より彼らが螺旋を描きながら舞い降りてきた。
AシリーズT1。SSH社長の親衛隊である熾天使と呼ばれ
る上級天使達であった。

「お迎えにあがりました。建様」

建はうなずくと、E‐9装備を解除し、その場に脱ぎ捨てた。

「彼らは客人だ。後からもう二人来るから全員応接室に案内し
ておいてくれ」

建の言葉に熾天使らはうなずき、先頭を歩き出した彼につい
て歩き出した。

「ボク達、ついていくしかないようだね……」

あずみは皆を促し、彼らの後を追った。
案内と言ってた割には敵を置き去りにした彼らの気が知れな
いと思ったが、その理由はすぐにわかった。通路の全てにAシ
リーズが待機しており、彼らが迷わないよう……いや、余計な
事をさせないようにだ。もっとも破壊活動を始めたとしても何
の被害も効果も与える事が出来なかったろうが。
一方通行となった通路を歩きながら、今から臨む会見への不
安を払拭させようとぽつぽつと話しを始めていた。

「一体、どういう事なの?」

倉本はたまらず石崎に問いを投げつける。しかしいつもの調
子で突き放すように、奴が言った通りだよ、と返してくる。い
つもなら倉本も言い返すのだが、新堂の落胆振りを見て気持ち
も萎えていた。

「らしくねぇな。両手が開いたんだから俺を殴ったらどうよ?」

それに気付いた石崎は柄にも無く倉本を励ましていたが、ら
しくなさを感じて次の言葉が出ずにいた。

「私に優しくしたって四〇〇%何も出ませんからね」

「はン、その時は無理矢理押し倒してやるよ」

通常回線から流れる微妙な会話があずみと凪喪をハラハラさ
せていたが、二人は別な事で手一杯であった。

「どう? ゴーレムは確保出来るかな?」

「まぁ何とかネ。
リンクは切れてないし、転送出来そうだけど……どうする?」

「ん~いや、いいや。
あの通路に擬似プログラムでバイパスを作ってゴーレムに誰
も近づけないよう隔離するだけにしておこう。
転送で迷子になられても困るし……」

「でも、なンの為にあんな失敗作を確保するの?
もう乙夏君達のデータが破壊されてしまったのに……」

「最後の可能性だよ」

接触回線で交わされた言葉とあずみが持った希望は、先のミ
サヲが持った不安の種と同じ物であった。しかし現時点でそれ
を確信としてもてている者は唯一人しかいなかった。

「ねぇ、真ぉ~
そろそろ、そのスタイル止めたら?」
E‐9スーツ間でしか通じない通常回線から流れたその言葉
に倉本は激しく反応する。激してあずみに詰め寄ろうとしたが、
石崎に腕を引かれて止められた。そしてあずみに乗った石崎は
続けた。

「そうそう、マコやん芝居が下手なんだから無理すんなって……」

軽口にも似た二人の言動に、倉本は戦慄き、凪喪はあっけに
とられていた。
幼馴染の域まで到達出来よう筈も無い二人は、励ますならも
っと言い方があるだろうに、と思ったのだ。ただ、今の状況で
はその励ましも無意味になるだろうとも感じてはいたが……

「ばれるか? やっぱり?」

あっさりと新堂が認めたため、二人は二度驚く事となった。
そしてエレベーターに入ると、新堂は全員のスーツとケーブ
ルによる直リンクでの接触回線で話しを始めた。

「建が光なら、俺達は無傷でミカエルの前に行けそうだ。
奴は危機管理がなっちゃいない。
良過ぎる頭とそれを過信するくだらない矜持を持っている限
り……
おかげで、ミカエルも技術開発部三課の一室に灯が入ってい
る事を見逃している。
あずみ、ゴーレムの全データを三課の一から九番の生体槽に
転送。
彼らが俺達人間の最後の切り札になる。
だが、なるべく彼らには力を封じたまま生き延びて欲しい。
その為にも、俺達は命に代えてもミカエルを破壊する。
スマン皆、俺に命をくれ。」

皆の回答は、何を今更、であった。


唯一絶対の存在の元に統一された世界を望む天使達……

力有る者が旧き者を駆逐する、力のみを真理とする世界を望
む堕天使達……

どちらにも属さず、また属し、混沌をその身に宿しながら、
自分は何者かを求めてなお生き続ける人間達……


この時、自分達が何を成すべくして生まれてきたのかをはっ
きりと自覚できた彼らは幸せだったのかもしれない。

電子的なベルの音が密室のエレベーターに響く。

この鐘の音が彼らにとって福音となるか、葬送の鐘となるか……

五人は扉をくぐる。

時代が変わり、人の生き様が変わってしまう未来に向けて……




(最終話 壊れていくこの世界で…… 了)

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